入学式の式次第で、PTA会長の挨拶は「保護者代表の祝辞」として載る。PTAは保護者と教職員でつくる団体だから、引き受けた人の多くは人前で話す専門家ではない。それでも祝辞が務まるのは、式辞には型があり、型は借りてよいからである。この記事は入学式を例に、3分の型と例文を渡す。
場面の前提 — 二種類の聞き手が同時にいる
入学式の祝辞がほかの挨拶と違うのは、聞き手が二層になっていることである。
- 立場: 保護者代表としてのPTA会長。学校の代表でも来賓でもない。
- 持ち時間: 3分以内。式典は進行が分刻みで、長い祝辞は式全体を押す。
- 聴衆: 6〜7歳の新入生と、その保護者・教職員の約200名。前の席の子どもたちは、長い敬語の文をまだ聞き取れない。
この二層に同じ文で話そうとすると、どちらにも届かない。子ども向けと大人向けの部を分けるのが、この型の芯である。
構成の3部 — 子どもへ、保護者へ、結びへ
- 子どもへの言葉(約1分): 短い文と易しい語だけで、入学への祝いと学校の楽しみを話す。一文を短く切り、問いかけを一つ入れると、子どもの顔が上がる。
- 保護者への言葉(約1分): 同じ新入生の親としての実感を一つ。ここだけは敬語の文で、PTAとして一緒に見守っていく旨を添える。
- 結び(約30秒): 教職員への感謝と、子どもたちの成長への祈りを定型で述べて締める。
例文 — 小学校の入学式・3分・約200名の場合
冒頭(子どもへの部の入り)と結びを載せる。
冒頭(音読約30秒)
新一年生のみなさん、ご入学おめでとうございます。PTA会長の◯◯です。むずかしい呼び名ですが、みなさんのお父さんお母さんの仲間のひとり、と覚えてください。学校には、楽しみがたくさん待っています。となりのお友だちと、あしたの朝も元気にあいさつできたら、それが小学生のすばらしい一歩目です。
結び(音読約25秒)
結びに、校長先生をはじめ教職員の皆さまには、大切な子どもたちをどうぞよろしくお願い申し上げます。新入生の皆さんの毎日が、健やかで実り多いものになりますよう、保護者一同、心から願っております。本日は誠におめでとうございます。
子どもへの部と結びで文体が変わるのは、この祝辞では欠点ではなく設計である。
言い換えの分岐 — 式と規模で直す
- 中学校の入学式なら、子どもへの部の語彙を引き上げ、問いかけを将来の話に寄せる。二層構成そのものは変えない。
- 運動会や周年行事の挨拶なら、祝辞ほどの格式は要らないことが多い。結びの定型を軽くし、全体を2分まで縮める。
- 雨天や進行の遅れで短縮を頼まれたら、削るのは保護者への部からにする。子どもへの言葉と結びが残っていれば、祝辞の役目は果たせる。
当日の進行チェック
- 前日: 演台に置く原稿を大きめの字で印刷し、時間を計って1回通す。
- 当日朝: 全文は読み返さず、子どもへの冒頭一文と結びだけ声に出す。
- 直前: 式次第で自分の順番を確かめ、登壇してからの礼の順序は学校側の案内に従うと決めておく。段取りの迷いが減ると、歩く足が落ち着く。
200人を前にすると、原稿があっても頭が白くなる瞬間はある。そのときのために立て直しの記事の「戻ってくる目印」を、結びの一文に仕込んでおくとよい。
