発表練習がつらいのは、終わりが見えないからである。「毎晩できるだけやる」と決めた練習には終わりがなく、どれだけやっても足りない気がして、前日の夜に疲れだけが残る。この記事は逆の順で組む。先に本番の日時から逆算して枠を割り付け、枠に入る分だけをやる。練習の中身は「通し1回と修正一箇所」の一種類しかない。
1週間の割り付け — 四つの区分
割り付けの骨組みは、一週間前・前日・当日朝・直前の四区分である。間の日は、同じ中身の繰り返しでよい。
| 区分 | やること | やらないこと |
|---|---|---|
| 一週間前の夜 | 時間を計って最初の通し。タイムと直す一箇所をメモ | 出来の採点。全文暗記の開始 |
| 間の日(2〜3回) | 通し1回+前回決めた一箇所の修正。冒頭と結びを声に出す | 毎晩の長時間練習。構成の作り直し |
| 前日 | 通し1回。冒頭と結びの仕上げ。持ち物と進行の確認 | 新しい内容・スライドの追加 |
| 当日朝 | 通し1回だけ。うまくいかなくても書き直さない | 直前の詰め込み。二回目の通し |
| 直前 | 冒頭の一文だけ目でなぞる。肩を一度落とす | 全文の読み返し |
最初の通しがいちばん腰が重いが、出来は問わなくてよい。つかえても止まらず最後まで進み、現在のタイムを知ることだけが目的である。ここで実測が出ると、残りの日にやることが「漠然とうまくなる」から「タイムを持ち時間に収める」に変わる。
練習1回分の手順 — 通し1回と修正一箇所
どの日も、1回分の中身は同じ四手順である。
- 時間を計り、立てるなら立って、最後まで通す。
- タイムと、引っかかった場所を記録する。
- 直すのは一箇所だけ。文を短くする、言いにくい語を言い換える、間を一拍足す、のどれか。
- 冒頭と結びの一文を、仕上げにもう一度だけ声に出す。
一箇所しか直さないのは、手を抜くためではない。全部を直そうとした練習は一回が重くなり、翌日に続かない。一箇所の修正は仮説の検証でもある。「ここを短くすれば通るはず」を翌日の通しで確かめる、この繰り返しが練習の本体である。
丸暗記をやめる — 冒頭と結びだけ声に出す
全文暗記を練習の目標にしない。暗記した原稿は一箇所飛ぶと後が全部崩れ、しかも暗記の確認に練習時間の大半を吸われる。声に出して固めるのは冒頭と結びの一文だけでよい。冒頭は離陸で、ここが出れば体が続きを覚えている。結びは着地で、途中が乱れてもここに降りれば発表は成立する。
本体は、キーワードだけの箇条書きで運ぶ。原稿を手放すのが不安なら、本番も手元に置いて構わない。見ないことではなく、見なくても冒頭と結びが出ることが仕込みの目標である。途中で頭が白くなったときに結びの一文へ戻る立て直しは、別の記事で扱っている。
緊張と練習の関係 — 消すためではなく連れて出るため
練習を重ねる目的を「緊張しなくなること」に置くと、当日の朝に必ず裏切られる。厚生労働省のこころの耳の教材は、ストレスへの反応が身体面・心理面・行動面の三つに表れると整理している。発表前の動悸や震えもこうした反応の一部で、練習量で消えるものではない。
練習が変えるのは反応そのものではなく、反応が出ても進める手順を持っているかどうかである。声や手の震えには症状別の対処を緊張クラスタの記事に分けてある。また、眠れない・食べられないなど生活への支障が続くほど強い状態なら、練習法ではなく医療機関への相談を選択肢にしてほしい。それはこの記事の外で、専門家の領分である。
やらないこと
- 前日に新しい内容を足す。 前日の追加は練習していない部分を増やすだけで、不安の総量も増える。
- 直前に全文を読み返す。 出番前に見るものは少ないほどよい。冒頭の一文だけでよい。
- 練習量で自分を採点する。 「昨日は30分しかやれなかった」は割り付けの外の話である。今夜の枠の分が終わったなら、それで終わりにする。
七日前の夜にやることは、壁の進行表に四つの枠を書き写し、今夜の枠に「計って一度通す」と書くことだけである。枠の外の不安は、枠の外に置いて眠ってよい。
