提案・報告・企画説明といった社内の発表を準備しよう。ここで仕込むのは、話す中身の並び順と、台本と、質疑への備えである。それだけで「で、結局どうしたいの」は防げる。
聞き手からの逆算 — 誰が何を決めるか
説得力というと声の張りや間の取り方を思い浮かべやすいが、社内プレゼンで実際に効くのは、判断する人に判断材料が届く順で並んでいるかどうかである。だから支度は、話す内容ではなく聞き手から始める。
書くのは一文だけである。「誰に・何を決めてほしいか」。たとえば「部長に、来月からの試験導入を承認してほしい」。決めてほしいことが特にない報告なら、「何を持ち帰ってほしいか」に置き換える。この一文が書けない発表は、構成以前に目的が定まっていない。逆にこの一文さえあれば、資料のどのページを話し、どのページを飛ばすかまで、ここから逆算できる。
結論・根拠・頼みの順に並べる
台本の骨組みは四つの部分でできる。
- 結論 — 決めてほしいことの一文を、最初の30秒以内に言う。
- 根拠 — 決め手になる順に二つか三つ。現状の問題、提案の効果、かかる費用のように、聞き手が判断に使う軸で並べる。
- 条件と限界 — 費用・リスク・やらない場合にどうなるか。都合の悪い情報を自分から先に置くと、質疑で突かれる場所が減る。
- 頼み — 結びで、決めてほしいことにもう一度戻る。「本日ご承認いただきたいのは、この一点です」。
経緯から話し始める構成が失敗しやすいのは、熱意の問題ではない。結論が出る前に持ち時間と聞き手の集中が尽きるからである。条件つきの冒頭例を一つ置く。備品管理システムの入れ替えを提案する担当者が、部長ほか8名に10分で話す場合の、最初の二文である。例は創作なので、自分の案件の言葉に置き換えて使う。
「本日お願いしたいのは、備品管理システムを来月から一部署で試験導入することの承認です。理由は三つあり、大きい順にご説明します」
削る基準 — 判断に使われない情報から外す
準備に費やした時間と説得力は比例しない。むしろ、苦労して調べた情報ほど削りにくく、本体を薄める。基準は一つでよい。その情報は、聞き手の判断に使われるか。
使われないが捨てたくない情報は、配布資料の後ろに付録として回す。「詳細は付録にあります。ご質問があれば開きます」と一言添えれば、調べた事実は伝わり、本体の持ち時間は守られる。全部を口で言うことと、全部が伝わることは別である。
想定問答を三つ仕込む
社内プレゼンの持ち時間には質疑が含まれる。ここで崩れると、本編の出来まで巻き戻されるので、発表の一部として仕込んでおく。
作り方は簡単で、一番反対しそうな人を一人思い浮かべ、費用・実現性・代案の三方向から一問ずつ書く。「もっと安い方法はないのか」「現場は回るのか」「今のままで何が困るのか」。答えは本編の結論と同じ責任範囲で用意し、盛らない。想定外の質問が来たときの一文も決めておく。「その数字は持ち合わせていません。明日中に確認してお戻しします」。質疑の途中で頭が白くなったときの立て直しは、別の記事に目印を用意してある。
この支度で扱わない範囲
最後に、境界をもう一度引いておく。社外への営業や商談で相手の心を動かす話術は、この記事の外である。スライドのデザインも同じく外で、前夜に装飾を直し始めたら支度が逆走している合図だと思ってよい。声や手が震えること自体への対処は緊張クラスタの記事が受け持つ。
出番の30分前にやることは、資料を増やすことでも読み返すことでもない。肩を一度落とし、決めてほしいことの一文だけを声に出す。それを持って袖へ立てば、この支度は済んでいる。
